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【導入事例】世界のF1を震撼させた技術の原点。戸田レーシングが語る「TPS」誕生秘話とものづくりの美学

導入事例

2026年09月15日

#F1

#エンジン

#ピストン加工機

 

岡山県小田郡矢掛町

――のどかな田園風景が広がるこの地に、世界のレーシング業界や国内外の自動車メーカーから一目置かれる技術集団が存在します。

それが、今回お話を伺った株式会社戸田レーシングです。

社員数約50名でありながら、レーシングエンジンやパーツの設計・開発から、自社製モータ、インバータ、さらには最先端の燃焼試験機まですべてを社内で一貫して手掛ける同社。

そして、世界のピストン加工のデファクトスタンダードとなったTAKISAWAの非円形加工CNC旋盤「TPS」シリーズの誕生と世界進出を陰で支えた「共同開発パートナー」でもあります。

創業者である戸田幸男会長と、二代目の戸田憲吾社長に、映画のような創業エピソードから「TPS」誕生の知られざる裏舞台、そしてものづくりにおける「本質を見極める目」について、じっくりとお話を伺いました。

 

【企業プロフィール】
会社名:株式会社戸田レーシング(1971年創業)
事業内容:レーシング・競技用部品の設計・製造、受託加工(自動車、航空機、宇宙関連)、自動車向け試験機・研究開発車両の製作など。

すべての部品の設計、モデルでのアセンブリ、製造、組み立て、テスト(ベンチテスト)までを社内で一貫して行う。

九死に一生、そして炎上!? ドラマチックな男とレースの軌跡

―― 戸田レーシングの歴史は、非常にドラマチックなスタートだったと伺いました。

戸田会長:すべては、私が学生時代に鈴鹿サーキットで12気筒エンジンの走りを見て、その圧倒的な魅力に惚れ込んだことから始まりました。

その後、岡山県内の大手自動車会社に就職したのですが、ある年の年末、鈴鹿で練習するために移動していた際に信号待ちをしていたところへ飲酒運転のトラックに追突される大事故に遭ってしまったんです。

なんとか一命は取り留めましたが、まさに「九死に一生」の体験でした。そのとき、「一度は死んだようなもの。それなら、残りの人生は大好きなレースのために使おう」と心に決め、友人を誘ってレースにエントリーし、12時間耐久レースに出場したのが1970年でした。


ところが、そのレース中に思わぬ出来事が起こりました。ドライバー交代で私が運転を外れてトイレから戻って掲示板を見ると、「炎上中」と表示されているマシン番号が、なんと私たちの車両番号だったのです。レースが中断となったものの、実際に炎上していたのは、ゼッケンの確認間違いによる他チームの車両でした。

 

友人は無事で、クラス優勝もできたのですが、この経験から「レースをやめるしかない」と一度は考えました。

しかし、レースそのものを諦めることはどうしてもできませんでした。そこで、「ドライバーとして自分でハンドルを握るのはやめて、つくる側に回ろう」と決意し、1971年に立ち上げたのが、『戸田レーシング』なんです。

それからしばらくはレースに没頭する日々を送っていましたが、1990年になって「レースだけでなく、本格的なものづくりの事業にも取り組もう」と大きく舵を切ることにしました。これが、現在のレースとものづくりの「二刀流」経営のスタートとなりました。

戸田幸男会長と戸田憲吾社長

「実績がない」という日本の壁を越え、ヨーロッパのレース界から世界を席巻した「TPS」

―― そのものづくりへの転換期(1990年)に、TAKISAWAとの出会いがあったのですね。

戸田会長:そうです。本格的なものづくりを始めるにあたり、最初に導入したのがTAKISAWAの10インチチャック旋盤「TC-3(現TCN-3500)」でした。

当時、ピストンメーカーでもピストンの倣い加工は行われていました。しかし、機械の回転数が低く、さらに手作業に頼る部分も多かったため、私たちが求めるミクロンレベルの精度を安定して出すことは非常に難しい状況でした。

そこでTAKISAWAさんに「ピストン専用の非円形加工機をつくれないか」と相談しました。

すると、ちょうど同じような機械の開発を検討されているところで、素晴らしい担当者とも巡り合うことができました。そこから話は一気に進み、誕生したのが非円形加工CNC旋盤の初代「TPS-3000」でした。

最初に納入された初代TPS-3000

 

 

「TPS」による加工

 

―― 「TPS」で加工したピストンを周囲に見せたとき、業界の反応はいかがでしたか?


戸田会長:
完成した初代TPSで削ったピストンを、日本の名だたるピストン関連メーカーの担当者に見せたんです。

誰もが口を揃えて「これは素晴らしいピストンだ。ぜひ加工機を導入したい!」と驚嘆してくれました。

しかし、最後には「……ただ、この機械はまだ世の中に導入実績がないから」と導入を見送られてしまったのです。実績のない新しい技術を敬遠する、日本ならではの壁にぶつかったのです。


そこで私たちは、まず海外のレース業界からTPSを広めていこうと考えました。実際にTPSは、ヨーロッパのレーシング業界で少しずつ評価され、広がっていきました。


ある時から、海外のレーシングカーのタイムが急激に速くなり、「いったい何が起きているのか」と業界内で話題になりました。そのエンジンの心臓部に使われていたのが、まさにTAKISAWAのTPSで加工された高精度なピストンだったのです。


やがて、イタリアの名門レーシングチームにも、TPSで加工したピストンが使われるようになりました。さらに、現地を訪れたレース関係者が「ヨーロッパには、非常に高精度なピストン加工機がある」と聞き、調べてみるとそれが日本のTAKISAWAのTPSだったという話もありました。

日本では実績がないことを理由に導入が進まなかった機械が海外で高く評価され、その評判を聞いた日本のメーカーがあらためて導入を検討し始める、そんな痛快な逆転劇が起こったのです。これをきっかけに、TPSはレーシング業界を通じて、世界中の自動車業界へと広がっていきました。

「世界標準」を見極める。他人の意見に流されず、本質を見抜く直感

―― 会長の「良いものを見極める目」が、世界の技術トレンドを動かしたのですね。


戸田会長:
他人の「実績」や「前例」ばかりを気にしていては、本当に良いものは手に入りません。

大切なのは、自分の目で見て、自分で使い、その価値を見極めることだと思っています。


今では業界標準となっている、海外製の最先端3D CAD/CAMソフトを導入したときもそうでした。

当時、そのソフトに対して「こんなものは使い物にならない」といった批判的な声も少なくありませんでした。しかし、私は早い段階から実際に使っており、使った瞬間に「これは間違いなく、将来世界の標準になる」と直感しました。その後、そのソフトを高度に使いこなしている私たちの噂を聞きつけて、開発元や販売元の方々がわざわざ当社の工場まで話を聞きに来られました。

「どうやって、このソフトをそこまで使いこなしているのか教えてほしい」と。


TAKISAWA
のTPSも同じです。最初から、「これは絶対に他社には真似できない、本物の機械になる」という確信が私の中にありました。良いものを良いと自分で見極め、その可能性を信じて突き進むことが、ものづくりの世界では何より重要です。

―― そして2026年8月、戸田レーシング様にとって3代目となる最新の「TPS-3400HⅡ」が導入されました。この機械を選ばれた理由を教えてください。

戸田会長:今回の「TPS-3400HⅡ」は、ピストンの外径オーバル加工とリング溝加工を1台で行うことができるため、これまで使用していた機種「TPS-4000」と比較しても、サイクルタイムを大きく短縮できると期待しています。

以前、他メーカーの大きな刃物台を備えた重厚なピストン加工機の話を聞いたことがありました。

刃物台そのものが重くなりすぎると、ピストンの複雑な非円形形状を高速で往復加工する際に、大きな振動が発生してしまいます。その結果、精度が出にくくなり、回転数も上げられず、加工時間も長くなってしまうのです。

一方、TAKISAWAのTPSは、余計な機能を極限まで削ぎ落とし、刃物台の「軽さ」と「高い応答性」を徹底的に追求しています。だからこそ、刃物台を高速で激しく動かしても振動を抑え、精度を維持できるのです。さらに、TPSは非常に堅牢で、長年使い続けても「全然壊れない」と感じるほどの信頼性があります。この軽さ、剛性、耐久性のバランスこそが、私たちがTAKISAWAのTPSを信頼し続けている大きな理由です。

3代目TPS「TPS-3400HⅡ」(手前)と2代目TPS「TPS-4000」(奥)

水素エンジン、インホイールモータ。のどかな田園から、1000馬力の未来へ

―― 戸田レーシング様では、ピストン加工に留まらず、次世代のクリーンエネルギーやEV分野でも非常にユニークな開発をされているそうですね。

戸田会長:私たちは、さまざまなメーカーや大学の研究開発向けに、「単気筒燃焼可視化エンジン」を受託製作しています。これは、シリンダー部分を透明なサファイアガラスでつくった特殊な試験装置です。ピストンやリングの動き、さらにシリンダー内部で燃料がどのように燃焼しているのかを、外から高速カメラで直接観察することができます。いわば、世界に一つだけのオーダーメイド試験装置です。

現在、世界中で水素エンジンをはじめとする新しい燃料を使った環境に優しい次世代のエンジンの研究開発が進められていますが、私たちの燃焼可視化技術が燃焼効率を上げて排出ガスを減らすための研究に大きく貢献しています。

また、EV時代を見据えた独自の「インホイールモータ(車輪の中に直接組み込むモータ)」の研究開発にも力を入れています。モータ性能を左右する重要な工程である「巻き線」の工程も、すべて自社で行える体制を整えています。

技術のバトンを次世代へ。若手エンジニアが集う、矢掛町のものづくり現場

―― 二代目である戸田社長は、どのような経緯で会社を引き継がれたのでしょうか?


戸田社長:
子どものころ、父に連れられてサーキットへ行き、モータースポーツの圧倒的な熱量に魅了されたことが私の原点です。当時は、日本中でレースへの注目が非常に高まっていた黄金期でした。
一度は別の会社に就職し、最先端の3D CAD/CAMソフトを扱うエンジニアとして、自動車メーカーの設計開発現場に深く関わる仕事をしていました。しかし、最先端のものづくりの現場を経験すればするほど、「この高度なものづくりを、自分たちの手で、自分たちの工場でダイレクトに形にしたい」という思いが強くなり、戸田レーシングに入社することを決意したんです。


昨今、動画配信サービスなどの影響などもあって、モータースポーツへの注目が再び若い世代の間で非常に高まっています。ものづくり離れが進んでいると言われる現代ですが、「本気でレースがしたい」「本物のエンジンがつくりたい」と、高い志を持った若いエンジニアたちが、この矢掛町の工場に集まってきてくれています。

実は、そうして集まった意欲ある若手エンジニアの中には、かつて戸田会長とともに初代「TPS」の共同開発に挑んだ、TAKISAWAの開発責任者の息子さんの姿もあります。

かつて親たちが情熱をぶつけ合って生み出した技術のバトンが、今度は息子たちの世代へと受け継がれて、戸田レーシングの現場で新たな未来を紡いでいる。のどかな田園地帯の工場で、世代を超えた熱い「技術の連鎖」が、今も力強く駆動しています。

 

―― 戸田会長ご自身は、これから挑戦したいことはありますか。


戸田会長:
私の今の夢は、自社で設計したエンジンにターボを載せ、自社製ミッションとモータを組み合わせた「1000馬力以上のモンスターマシン」を、ここで一からつくり上げ、それを自分で運転してみたいと思っています。私は今年79歳になりますが、今でも毎日CADを使い、エンジンをはじめとするさまざまな設計に熱中しています。365日好きな仕事をして、暇なんて全くありませんよ。


常に「他に誰もやっていない、面白いこと」に挑み続ける。その姿勢こそが、戸田レーシングの魂です。そして、その挑戦を高い次元で支えてくれるTAKISAWAの機械は、これからも私たちにとって、世界へ共に挑む欠かせないパートナーです。

 

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株式会社戸田レーシング

〒714-1215 岡山県小田郡矢掛町中640-1

TEL:0866-83-1202

FAX:0866-83-1203

Webサイト:https://toda-racing.co.jp/

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今回導入された機械

非円形加工CNC旋盤「TPS-3400HⅡ」

  • ピストン外径のオーバル(非円形)加工とリング溝加工を1台に集約。
  • 独自の加工プログラミングソフトTPPF4により操作性、作業効率向上をサポート
  • 最大加工径/最大加工長さ:Φ260mm/285mm

「TPS-3400HⅡ」の仕様はこちら